お久しぶりです。ジャックロードでヴィンテージウォッチの仕入れを担当しております、高岡です。
以前、シリーズの記事でGMTマスターのレアモデル6本をご紹介したことがあります。
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この時は1980年代・GMTマスターⅠからⅡへの過渡期モデルを中心に解説しました。
今回はなんと1956年製 GMTマスターが入荷!専門店である我々ですら滅多にお目にかかることのできない超希少なオリジナルベゼルの1stモデル、Ref.6542をご紹介したいと思います。
GMTマスターの歴史についてはVol.4の冒頭でも触れましたが、かなりざっくりだったのでもう一度解説したいと思います。
ロレックスからGMTマスターが発売されたのは1955年のことです。トヨタから日本を代表する車の1つとなるクラウンが発売され、集英社から少女漫画雑誌「りぼん」が創刊された年です。世界の映画史に名を残す伝説のヒーロー、ジェームス・ディーンが交通事故で亡くなり世の女性に衝撃が走った年でもありました。
ちなみにApple創業者のスティーブ・ジョブズ氏とWindows生みの親であるビル・ゲイツ氏も1955年のお生まれ。なんと二人は同い年だったんですね。
GMTマスターの1stモデルRef.6542が製造されていたのは1955年~1959年のわずかな期間。そもそもの個体数が少なく、さらにオリジナルのベイクライトベゼルを備えたモデルは市場でもなかなか出会えないレアピースです。当店ジャックロードでは約5年ぶりという久々の入荷となりました。
それではさっそく今回入荷したRef.6542について詳しくご紹介していきましょう。
“ベイクライト”とは世界初の人工合成樹脂の商標で、つまり今日のプラスチックのお初といえる素材。GMTマスター第二世代Ref.1675でベゼルインサートの素材がアルミニウム製に変更されるまでは、このプラスチック樹脂が素材に使用されていました。
ベイクライトは耐熱性や絶縁性に優れている一方、水や紫外線に弱いという短所があり、状態が良いまま現存するベイクライトベゼルはほとんどないかもしれません。
Ref.6542にはりゅうずを物理的なダメージから守るためのりゅうずガードがまだ採用されていませんでした。これもファーストモデルにしか見られない特徴で、Ref.1675以降のGMTマスターは全てりゅうずガードを装備しています。
ミラーダイヤルとは1967年くらいまで作られていた、表面に光沢がある文字盤のこと。同年代のエクスプローラーやサブマリーナーなどにもみることができます。
ミラーダイヤルはクラック(ヒビ)が入りやすいなど劣化しやすく、状態のよいものは高値で取引されます。この個体のミラーダイヤルは残念ながら経年変化によってだいぶ艶感は失われていますが、1950年代のミラーダイヤルはまず存在そのものが希少。
それでは文字盤をつぶさに見ていきましょう。
初代Ref.6542から第二世代Ref.1675の初期生産分まで採用されていた24時間針は、現行に比べると三角の部分が小さく“ミニ針”と呼ばれています。
この個体(上)は夜光が剥げて三角の部分が黒くなっていますが、ミニサイズであることは確認できますよね。
この個体に搭載されているムーブメントはCal.1035。当時から自動巻き機構の最先端を行っていたロレックスでしたが、それまでの自動巻きムーブメントはローターは両方向に全回転しても、ぜんまいが巻き上げれるのは右回転の時のみ。左回転の時は空回りでした。全回転両方向の巻き上げ機構が搭載されるようになったのは1950年頃に開発されたCal.1030からです。
ロレックスの夜光塗料は1961年頃までラジウムが使用されており、その後トリチウム夜光に切り替わっていきました。トリチウムが夜光塗料に使用されている場合は、6時位置の製造国表記の箇所にSWISS-T<25のようにプリントされています。ちなみにT<25とはトリチウムの放射線量が25ミリキュリー以下であるという意味です。
いかがでしたでしょうか?
コンディションの良いものであれば1000万円近い価格がついても不思議ではない、オリジナルベゼルのGMTマスター1stモデル。使用されることなく倉庫で眠っていたようなものでない限り、そうそう状態のよい個体は見つかりません。
こういった歴史的に重要なタイムピースは、ことコンディションで評価されてしまうのは致し方ないこと。ですが、ヴィンテージウォッチの素晴らしさはそれだけに限定されるわけでは決してありません。
1956年製造のこの時計が最初の持ち主の手に渡ったのは、まだカラーテレビもなかった時代です。それが今やAIだ、仮想化技術だと、当時は想像の世界だったことが現実となったこの60余年。
その間にはクオーツショックによる機械式時計産業の衰退があり、冒頭でお話したジョブズやビル・ゲイツの話じゃありませんが、情報技術によって劇的に便利な世の中となり、スマートウォッチが台頭し、その対岸ではアナログな機械式時計が再評価され復権していく…そんな激動の時代の酸いも甘いも吸収して閉じ込めたかのごとく、この小さなタイムピースに濃い本物の時間が凝縮されている雰囲気そのものが、見る人の心を揺さぶるのです。それを丸めていうと「ヴィンテージウォッチならではの深い味わい」という表現になります。暗闇に静かに眠るのではなく、持ち主とともに時代を生きてきたからこその味わいです。その辺りを加味してご覧になると、一層豊かな気持ちで腕時計ライフを愉しんでいただけるのではないでしょうか。
それではまた、レアピースが入荷したらお目にかかりましょう!
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