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2019/9/17

ロレックス Ref.6542 GMTマスター1stモデル~超希少なオリジナルベイクライトベゼル~[アンティーク仕入れ担当の時計図鑑 Vol.6]

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ロレックス Ref.6542 GMTマスター1stモデル~超希少なオリジナルベイクライトベゼル~[アンティーク仕入れ担当の時計図鑑 Vol.6]

お久しぶりです。ジャックロードでアンティークウォッチの仕入れを担当しております、高岡です。

以前、シリーズの記事でGMTマスターのレアモデル6本をご紹介したことがあります。

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この時は1980年代・GMTマスターⅠからⅡへの過渡期モデルを中心に解説しました。

今回はなんと1956年製 GMTマスターが入荷!専門店である我々ですら滅多にお目にかかることのできない超希少なオリジナルベゼルの1stモデル、Ref.6542をご紹介したいと思います。

■この記事の監修;
ジャックロード JACKROAD
業界最大手!新品・中古・アンティークの時計が常時5000本以上という全国屈指の品揃えを誇るブランド腕時計専門店ジャックロード。創業30年以上の実績と信頼、豊富な知識で人気ブランド商品について分かりやすく解説します。

■SHOP INFORMATION;
店舗(東京・中野ブロードウェイ3F)案内は こちら
オンラインストアは こちら

GMTマスターの誕生

GMTマスターの歴史についてはVol.4の冒頭でも触れましたが、かなりざっくりだったのでもう一度解説したいと思います。

ロレックスからGMTマスターが発売されたのは1955年のことです。トヨタから日本を代表する車の1つとなるクラウンが発売され、集英社から少女漫画雑誌「りぼん」が創刊された年です。世界の映画史に名を残す伝説のヒーロー、ジェームス・ディーンが交通事故で亡くなり世の女性に衝撃が走った年でもありました。

ちなみにApple創業者のスティーブ・ジョブズ氏とWindows生みの親であるビル・ゲイツ氏も1955年のお生まれ。なんと二人は同い年だったんですね。

希少なGMTマスターの数々

話が脱線しました。さて、のちにIT業界を牽引し世界に革命を起こすことになる英雄二人と同じ年に生まれたGMTマスターもまた、時計界に新境地を切り開いた歴史的パイロットウォッチです。当時アメリカ最大級の航空会社だったパンアメリカン航空(日本ではパンナム航空として知られる)からの依頼がきっかけで製作されました。

メインの時間帯を文字盤+短針で、第2時間帯を24時間針+時差に合わせてセットした回転ベゼルで、2つの異なる時間帯を同時に表示することのできるGMTマスターの秀逸な機能は、パンナム航空以外の多くのパイロットからも支持を得ます。また、昼夜がわかりやすいよう2色に塗り分けられた両方向回転24時間ベゼルは、デザイン的にも大きなインパクトがあり、海外旅行を楽しむ富裕層にも人気の裾野を広げていきます。

デザインにインパクトがありすぎたのか、実は日本では2000年頃まではサブマリーナーやエクスプローラーに比べるとあまり人気のない機種だったGMTマスター。発売から40年以上も不遇の時代を過ごしたわけですが、あの石原裕次郎さんが赤/青ペプシベゼルのGMTマスターを公私で愛用していたことは有名な話なんですよ。1972年から放送が始まった「太陽にほえろ!」の劇中でも着用していたのですから、今振り返ると完全に時代の先を行っていて、そこはさすがの大スターですよね。

ちなみに石原裕次郎さん愛用モデルはGMTマスターの第二世代であるRef.1675。今回ご紹介するのはさらにその前の第一世代、正真正銘のファーストモデルになります。

GMTマスター1stモデルの特徴

GMTマスターの1stモデルRef.6542が製造されていたのは1955年~1959年のわずかな期間。そもそもの個体数が少なく、さらにオリジナルのベイクライトベゼルを備えたモデルは市場でもなかなか出会えないレアピースです。当店ジャックロードでは約5年ぶりという久々の入荷となりました。

それではさっそく今回入荷したRef.6542について詳しくご紹介していきましょう。

GMTマスター1stモデル

……。正直に申し上げましょう。この通り、コンディションはあまりよくありません。「アンティークならではの深い味わい」を差し引いても、かなりのヒビや欠けが全体的にみられます。でもこれは、逆にいうと「1stモデルだからこそのコンディション」でもあるのです。

初期モデルのみのベイクライトベゼル(プラスチックの樹脂ベゼル)

GMTマスター1stモデルのベゼルアップ

“ベイクライト”とは世界初の人工合成樹脂の商標で、つまり今日のプラスチックのお初といえる素材。GMTマスター第二世代Ref.1675でベゼルインサートの素材がアルミニウム製に変更されるまでは、このプラスチック樹脂が素材に使用されていました。

ベイクライトは耐熱性や絶縁性に優れている一方、水や紫外線に弱いという短所があり、状態が良いまま現存するベイクライトベゼルはほとんどないかもしれません。

GMTマスター1stモデル

ですが、よくよくご覧ください。樹脂であるがゆえのこの独特の艶感。経年変化による色の深み。そしてこの風合い。アルミ製のベゼルにも退色による固有の味わいはあるにしろ、ベイクライトベゼルのこの雰囲気は出せません。ある種の色気というか、妖艶さを感じるのは僕だけではないはず。マニア垂涎の激レアパーツです。

りゅうずガードのないケース

Ref.6542にはりゅうずを物理的なダメージから守るためのりゅうずガードがまだ採用されていませんでした。これもファーストモデルにしか見られない特徴で、Ref.1675以降のGMTマスターは全てりゅうずガードを装備しています。

Ref.6542とRef.1675の比較

Ref.6542はすっきりしてクラシカルな印象ですよね。りゅうずにはステンレススチール製を意味するバーと、クラウンマークがしっかりと刻まれています。

GMTマスター1stモデル

サークルミラーダイヤル

ミラーダイヤルとは1967年くらいまで作られていた、表面に光沢がある文字盤のこと。同年代のエクスプローラーやサブマリーナーなどにもみることができます。

ミラーダイヤルはクラック(ヒビ)が入りやすいなど劣化しやすく、状態のよいものは高値で取引されます。この個体のミラーダイヤルは残念ながら経年変化によってだいぶ艶感は失われていますが、1950年代のミラーダイヤルはまず存在そのものが希少。

それでは文字盤をつぶさに見ていきましょう。

GMTマスター1stモデルのサークルミラーダイヤル

黒文字盤の場合、通常ロレックスのロゴや英字は白色でプリントされていますが、ミラーダイヤルはゴールドカラーです。クラシカルかつ、高級感がありますよね。

6時側にはC.O.S.C(スイス公式のクロノメーター検定機関)のクロノメーター認定を受けたムーブメントを搭載していることを示す“OFFICIALLY CERTIFIED CHRONOMETER”の英字レターが。この表記もRef.6542からRef.1675の最初期のものだけに見られる特徴です。以降は「SUPERLATIVE CHRONOMETER OFFICIALLY CERTIFIED」表記に変更されます。

Ref.6542とRef.1675の比較

赤線を引いた部分ですね。こうしてみると書体もちょっとずつ違いますね。

ミニッツサークルにも注目です。ミニッツサークルとは文字盤上にプリントされたミニッツ表示の大外にサークルラインが入っているもので、このサークルラインが入ったミラーダイヤルのことを特に「サークルミラーダイヤル」といいます。1960年代以降はサークルラインなしのデザインに変更されたため、ただでさえ希少なミラーダイヤルの中でも、サークルミラーダイヤルはさらに数が少ないのです。

Ref.6542とRef.1675の比較

ちなみにサークルミラーダイヤルはラジアルインデックスといって、インデックスが内寄りにレイアウトされています。ノーマルインデックスはそれよりも外寄り、ミニッツ表示に近いところにインデクスがレイアウトされているのがお分かりいただけるでしょうか。

先端の三角が小さい24時間針(ミニ針)

初代Ref.6542から第二世代Ref.1675の初期生産分まで採用されていた24時間針は、現行に比べると三角の部分が小さく“ミニ針”と呼ばれています。

Ref.1675の針の先端の様子

この個体(上)は夜光が剥げて三角の部分が黒くなっていますが、ミニサイズであることは確認できますよね。

両方向巻き上げ式の自動巻きムーブメント

この個体に搭載されているムーブメントはCal.1035。当時から自動巻き機構の最先端を行っていたロレックスでしたが、それまでの自動巻きムーブメントはローターは両方向に全回転しても、ぜんまいが巻き上げれるのは右回転の時のみ。左回転の時は空回りでした。全回転両方向の巻き上げ機構が搭載されるようになったのは1950年頃に開発されたCal.1030からです。

GMTマスター1stモデルの裏ぶたを開けた様子

Cal.1035はその歴史的ムーブメントであるCal.1030系の名機で、姿勢値による誤差も抑えられた第二世代のパーペチュアルです。

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ラジウム夜光

ロレックスの夜光塗料は1961年頃までラジウムが使用されており、その後トリチウム夜光に切り替わっていきました。トリチウムが夜光塗料に使用されている場合は、6時位置の製造国表記の箇所にSWISS-T<25のようにプリントされています。ちなみにT<25とはトリチウムの放射線量が25ミリキュリー以下であるという意味です。

Ref.6542とRef.1675の比較

ラジウム夜光の場合、表記はSWISS またはSWISS MADEです。放射性物質であるラジウムを使用した夜光塗料は今では絶対採用されることのない負の遺産かもしれませんが、希少な歴史的遺産であることには変わりありません。トリチウム夜光の半減期は12、3年のため、多くはその性能を失っていますが、ラジウムの半減期は驚異の1600年。なので、理論上はまだ光るはずです。こちらの個体はどうでしょうか?電気を消してみます。

GMTマスター1stモデルの夜光塗料が残っている様子

いかがですか?夜光そのものが剥げてしまっている部分もありますが、残っている部分はこのように神秘的な青色に光りました。現行モデルに至るまで、ルミナスポイントに夜光塗料が使われている以外、このようにベゼルの数字まで光を発するGMTマスターは、ベイクライトベゼルを備えたファーストモデルだけ。

さて、そこまでお見せするかちょっと迷いましたが、なかなかない機会ですから時計にガイガーカウンターを近づけてみましょう。

GMTマスター1stモデルにガイガーカウンターを近づける様子

ピピピピピピピ!画像ではわかりませんが、ガイガーカウンターを時計に近づけた瞬間に警告音を発しました。この時の測定値は3~7マイクロシーベルト/時くらい。インターネットで少ないながら情報を拾ってみると、Ref.6542はラジウム夜光を用いたアンティークロレックスの中でも高めの数値が出るようですね。おそらく、ベゼルの数字までラジウム夜光が使用されているからでしょう。

ちなみに人体が1年間に自然に受ける放射線量は平均で2400マイクロシーベルトだそうです。ラジウム夜光が微量ながら放射線を発していることはコレクターの間では有名な話ではありますが、実際に目にする機会は少ないと思いますので、ご参考になればと思います。

まとめ

GMTマスター1stモデルの着用画像

いかがでしたでしょうか?

コンディションの良いものであれば1000万円近い価格がついても不思議ではない、オリジナルベゼルのGMTマスター1stモデル。使用されることなく倉庫で眠っていたようなものでない限り、そうそう状態のよい個体は見つかりません。

こういった歴史的に重要なタイムピースは、ことコンディションで評価されてしまうのは致し方ないこと。ですが、アンティークウォッチの素晴らしさはそれだけに限定されるわけでは決してありません。

1956年製造のこの時計が最初の持ち主の手に渡ったのは、まだカラーテレビもなかった時代です。それが今やAIだ、仮想化技術だと、当時は想像の世界だったことが現実となったこの60余年。

その間にはクオーツショックによる機械式時計産業の衰退があり、冒頭でお話したジョブズやビル・ゲイツの話じゃありませんが、情報技術によって劇的に便利な世の中となり、スマートウォッチが台頭し、その対岸ではアナログな機械式時計が再評価され復権していく…そんな激動の時代の酸いも甘いも吸収して閉じ込めたかのごとく、この小さなタイムピースに濃い本物の時間が凝縮されている雰囲気そのものが、見る人の心を揺さぶるのです。それを丸めていうと「アンティークウォッチならではの深い味わい」という表現になります。暗闇に静かに眠るのではなく、持ち主とともに時代を生きてきたからこその味わいです。その辺りを加味してご覧になると、一層豊かな気持ちで腕時計ライフを愉しんでいただけるのではないでしょうか。

それではまた、レアピースが入荷したらお目にかかりましょう!

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